くしゃくしゃに丸めて
ムチャクチャな感情
空き地に放った
〈痛っ!〉
誰かが叫んだ
誰も居ないと思ったのに
〈痛いよ、痛いよ〉
悲しく震える声
ごめんね、ごめんなさい
目を凝らす
何の影も見えない
どこ?どこに居るの?あなたは誰?
返事がない
ねえ、大丈夫?
〈うん、なんとか大丈夫だよ、きみは平気?〉
え、何で?
どうしてそんなこと
ちぐはぐな返答
〈だってきみの方が痛いでしょ?〉
意味不明
泣きそうになる
教えて、誰なの?何で見えないの?
〈見えなくて当然だよ、だって〉
だって?
言い出し兼ねてる雰囲気
〈あのね、きみがさっき投げ捨てたの、ぼくなんだ〉
え?
〈ぼくであり、きみなんだよ〉
混乱してまた
くしゃくしゃにしたくなる
〈要らなくない感情までいっしょに引き剥がしたから、ヒリヒリしてるでしょ?〉
胸が火傷してる
捨てたら心はまっさら
きれいになると思ってた
〈感情を捨てる時は分別が大事なんだよ、ムチャクチャなら尚更ね〉
ぶんべつ?
〈要るもの要らないもの、捨てるにしても燃えるゴミ不燃ゴミ生ゴミ、リサイクル、沢山あるよ〉
そんなに細かく
胸に手を当てる
心臓が動いてる
〈捨てる場所にも気をつけてね〉
専用の場所があるの?
〈うん、だからポイ捨てはダメだよ〉
知らなかった
目の前の空き地
静かに眺めて見つけた
小さな花々
〈可愛いでしょ?〉
うん、さっきは目に入らなかった
〈でも今は見えてる、綺麗だなって〉
そうだね
〈だから、いいんだよ〉
そうなの?
〈もう、ヒリヒリしてないでしょ?〉
火傷の感覚が無い
ちょっとふんわかしてる
治ってる!
〈良かったね〉
うん、ありがとう
花が拍手した
そんな気がした
戻ってきてくれる?
〈え?〉
だってポイ捨てはダメなんでしょう?だから、持って帰る
〈ほんとに?〉
ほんと!
やわらかい風
やさしくそよぐ
〈じゃあ、帰ろう〉
うん、帰ろう
花が手を振った
さわさわサヨナラ
これからもよろしくね
〈こちらこそ、よろしくね〉
見送る空き地
にこやかだった